最近、シャワーを浴びるたびに、排水溝に溜まる抜け毛の量に心を痛めていた。まだ30代前半。鏡を見るたびに、生え際が少し後退し、頭頂部が薄くなったような気がして、自信を失いかけていた。そんな僕を見かねたのか、妻が「一回行ってみたら?」と、育毛ヘッドスパの予約を取ってくれた。正直、半信半疑だった。マッサージで髪が生えるなら、誰も苦労はしない。そんな気持ちで、僕はサロンのドアを開けた。しかし、一歩足を踏み入れた瞬間から、その考えは揺らぎ始めた。落ち着いた照明、アロマの香り、そして何より、出迎えてくれたセラピストの穏やかで専門的な雰囲気に、少しだけ心がほぐれた。カウンセリングでは、マイクロスコープで自分の頭皮の状態を見せられた。赤みを帯びた頭皮、詰まった毛穴。その映像はショックだったが、同時に、自分の悩みが客観的な事実として目の前に現れたことで、妙な納得感もあった。個室に移り、ふかふかのリクライニングチェアに身を委ねると、施術が始まった。温かいスチームで頭皮がじんわりと温められ、専用のジェルを使ったクレンジングが始まる。自分では決してできない、毛穴の奥まで届くような感覚。そして、メインのマッサージ。それは、僕が想像していたような単なる「気持ちいい」マッサージではなかった。頭のツボ、筋肉の走行を熟知した的確な圧が、凝り固まった頭皮をゆっくりと、しかし力強く解放していく。側頭筋がほぐれると、こめかみの圧迫感がすっと消え、後頭部から首筋にかけてのマッサージでは、長年の肩こりまでが和らいでいくようだった。いつの間にか、僕は深い眠りに落ちていた。施術が終わり、再びマイクロスコープを見ると、頭皮の赤みは引き、毛穴がくっきりと見えていた。何より驚いたのは、その爽快感だ。頭が数センチ小さくなったかのように軽く、視界までがクリアになった気がした。髪がすぐに増えるわけではない。でも、プロに悩みを打ち明け、自分の体を丁寧にケアしてもらえたという事実が、何よりも心を軽くしてくれた。ヘッドスパは、髪だけでなく、僕の心にも栄養をくれた。明日から、また少しだけ前を向いて歩けそうだ。
抜け毛に悩む僕がヘッドスパに救われた日