私たちの髪の毛の約9割は、「ケラチン」というタンパク質からできています。そして、このケラチンを合成する上で、絶対に欠かすことのできない重要な役割を担っているのが、ミネラルの一種である「亜鉛」です。亜鉛は、体内で作り出すことができないため、食事から摂取する必要がある必須ミネラルですが、髪の健康、すなわち育毛において、まさに「縁の下の力持ち」とも言える極めて重要な存在なのです。亜鉛が髪の毛に与える影響は、主に二つの側面に集約されます。第一に、前述した「ケラチンの合成サポート」です。私たちは食事からタンパク質を摂取しますが、それは一度アミノ酸に分解され、体内で再びケラチンという髪の毛の形に再合成されます。この複雑な再合成のプロセスにおいて、亜鉛は酵素の働きを助ける「補酵素」として機能します。つまり、いくらタンパク質をたくさん摂っても、亜鉛が不足していては、それを髪の毛という最終製品に作り変えることができず、材料不足に陥ってしまうのです。髪が細くなったり、弱くなったり、伸びるのが遅くなったりする原因の一つに、この亜鉛不足が考えられます。第二に、「ヘアサイクルの正常化」への寄与です。髪の毛には、成長期・退行期・休止期というサイクルがあり、亜鉛はこのサイクルの維持にも関わっています。特に、毛根にある毛母細胞が活発に細胞分裂を繰り返す「成長期」において、亜鉛は細胞分裂を促す重要な役割を果たします。亜鉛が不足すると、この細胞分裂がスムーズに行われず、成長期が短縮され、髪が十分に育たないまま抜け落ちてしまう可能性があります。さらに、亜鉛にはAGA(男性型脱毛症)の原因物質であるDHT(ジヒドロテストステロン)を生成する酵素「5αリダクターゼ」の働きを抑制する効果があるという研究報告もあり、薄毛予防の観点からも注目されています。このように、亜鉛は髪の「材料」を作り、「成長」を促し、「抜けにくくする」という、育毛の根幹をなす複数のプロセスに深く関わっているのです。
亜鉛が髪の毛に不可欠な理由