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女性の薄毛、甲状腺疾患を疑うべきケースとは
薄毛の悩みは男性だけの専売特許ではありません。多くの女性が、分け目が目立つ、髪全体のボリュームが減ったといった悩みを抱えています。そして、女性の薄毛の原因として、AGA(男性型脱毛症)と並んで、あるいはそれ以上に頻度が高いのが、「甲状腺疾患」です。特に、以下のようなケースに当てはまる女性は、甲状腺の異常を一度疑ってみる必要があります。まず、最も注意すべきなのが「出産後」です。産後に抜け毛が増える「分娩後脱毛症」は、ホルモンバランスの急激な変化による生理的な現象で、多くは半年から一年で自然に回復します。しかし、出産は、体に大きな負担をかけるため、それをきっかけに自己免疫に異常が生じ、甲状腺機能の異常(特に橋本病)を発症することがあります。これを「出産後甲状腺炎」と呼び、産後の抜け毛が一年以上経っても改善しない、あるいは悪化するような場合は、この可能性を考える必要があります。次に、「30代から40代以降の女性」であること。甲状腺疾患、特に橋本病は、30代から40代の女性に最も発症しやすいとされています。この年代は、更年期の始まりとも重なり、ホルモンバランスが乱れやすい時期です。薄毛や体調不良を「更年期だから」と自己判断せず、一度は甲状腺の検査を受けてみることをお勧めします。また、「近親者に甲状腺疾患の人がいる」場合も、リスクが高いと言えます。橋本病やバセドウ病は、遺伝的な要因が関与することが分かっています。母親や姉妹に甲状腺の病気を持つ人がいる場合は、自分もその体質を受け継いでいる可能性があります。そして、最も重要なのが、「薄毛以外の全身の不調」を伴っているかどうかです。異常な疲れやすさ、体重の急激な増減、むくみ、動悸、気分の落ち込みなど、前述したような甲状腺疾患特有の全身症状が、薄毛と同時に現れている場合は、その関連を強く疑うべきです。女性の薄毛は、原因が多岐にわたるため、自己判断が非常に難しい領域です。思い当たる節がある方は、一人で悩まず、まずは内科や婦人科、内分泌内科の医師に相談してみてください。
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甲状腺が原因の薄毛は治る?治療と髪の回復プロセス
甲状腺の機能異常によって引き起こされた薄毛。その診断を受けた時、大きなショックと共に、「この薄毛は、もう治らないのだろうか」という深い不安に襲われるかもしれません。しかし、希望を捨てないでください。甲状腺疾患が原因の薄毛は、他の多くの脱毛症とは異なり、その原因が明確であり、適切な治療によって「回復する可能性が非常に高い」という大きな特徴があります。甲状腺疾患による薄毛は、AGA(男性型脱毛症)のように、毛根そのものがミニチュア化(矮小化)し、再生能力を失ってしまうわけではありません。多くの場合、ホルモンバランスの乱れによって、ヘアサイクルが一時的に狂い、多くの髪が成長を止めて休止期に入ってしまっている「休止期脱毛症」の状態です。つまり、毛根自体は生きており、再び髪を生み出すポテンシャルを秘めているのです。したがって、治療の基本は、薄毛そのものではなく、その大元である「甲状腺疾患」をコントロールすることにあります。甲状腺機能低下症(橋本病など)の場合は、不足している甲状腺ホルモンを補充する薬(レボチロキシンナトリウム、商品名:チラーヂンSなど)を毎日服用します。甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)の場合は、甲状腺ホルモンの合成を抑える薬(抗甲状腺薬)などを用いて、過剰なホルモンを正常値に戻します。これらの治療によって、血液中の甲状腺ホルモンの濃度が正常範囲で安定してくると、乱れていた全身の新陳代謝が元に戻り、それに伴って、毛母細胞の活動も徐々に正常化していきます。休止期に入っていた髪の毛は抜け落ちますが、その下では、新しい髪の毛が再び成長を始めます。ただし、髪の回復には時間がかかります。ヘアサイクルが正常に戻り、新しい髪が生え揃い、見た目のボリュームが回復したと実感できるまでには、個人差はありますが、一般的に治療開始から「半年から一年程度」の時間が必要です。焦らず、根気強く、主治医の指示に従って甲状腺の治療を続けること。それが、髪と体全体の健康を取り戻すための、最も確実な道筋なのです。
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頭皮の硬さと薄毛の関係。あなたの頭皮は大丈夫?セルフチェック法
「なんだか最近、頭皮が硬い気がする」もしあなたがそう感じているなら、それは薄毛や抜け毛の危険信号かもしれません。頭皮の「硬さ」は、髪の健康状態を映し出す重要なバロメーターであり、放置しておくと、将来的な薄毛のリスクを著しく高めてしまう可能性があります。なぜ、頭皮が硬いと薄毛に繋がるのでしょうか。私たちの頭皮の下には、帽子のように頭蓋骨を覆う「帽状腱膜(ぼうじょうけんまく)」という薄い膜があります。この帽状腱膜と頭蓋骨の間には、筋肉がほとんど存在しないため、もともと血行が滞りやすい構造になっています。そこに、長時間のデスクワークによる眼精疲労や、精神的なストレス、睡眠不足などが加わると、帽状腱膜に繋がる周辺の筋肉(前頭筋、側頭筋、後頭筋)が過度に緊張し、収縮します。その結果、帽状腱膜がパンと張ったように突っ張り、頭皮全体の柔軟性が失われ、カチカチに硬くなってしまうのです。硬くなった頭皮は、その下を走る毛細血管を圧迫し、深刻な「血行不良」を引き起こします。髪の毛は、血液から栄養を受け取って成長するため、頭皮の血行不良は、髪の工場である毛母細胞への栄養供給を断絶させることを意味します。栄養不足に陥った髪は、徐々に細く弱々しくなり(軟毛化)、やがては抜け落ちてしまいます。これが、頭皮の硬さが薄毛に直結するメカニズムです。では、あなたの頭皮は大丈夫でしょうか。簡単なセルフチェック法で、現在の頭皮の柔軟性を確認してみましょう。まず、両手の指の腹全体を、左右の耳の上あたりの側頭部にしっかりと当てます。そして、指は固定したまま、頭皮そのものを前後、あるいは円を描くように動かしてみてください。この時、頭皮が頭蓋骨の上を柔らかく、大きく動けば、あなたの頭皮は健康な状態です。しかし、ほとんど動かない、あるいは動かそうとすると痛みを感じる場合は、頭皮がかなり凝り固まり、硬くなっている証拠です。このセルフチェックで「硬い」と感じたなら、それはあなたの髪が発しているSOSサインです。手遅れになる前に、頭皮マッサージや生活習慣の改善で、柔らかく血行の良い、健康な頭皮を取り戻す努力を始めましょう。