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甲状腺とAGAの併発。見分け方と治療の注意点
薄毛の原因は、必ずしも一つとは限りません。特に男性の場合、最も厄介なケースの一つが、全身の代謝に関わる「甲状腺疾患」と、男性ホルモンが原因の「AGA(男性型脱毛症)」が、同時に発症・進行している「併発」の状態です。この二つが併発すると、薄毛の進行が通常よりも速まったり、治療が複雑になったりするため、それぞれの特徴を理解し、正しく対処することが重要になります。まず、この二つをどのように見分ける、あるいは併発を疑うのでしょうか。大きなヒントは、薄毛の「パターン」と「全身症状」です。甲状腺疾患による薄毛は、頭部全体が均一に薄くなる「びまん性脱毛症」が典型的なパターンです。一方、AGAは、生え際(M字部分)や頭頂部(O字部分)といった、特定の部位から薄毛が進行するのが特徴です。もし、M字やO字の後退が見られると同時に、側頭部や後頭部といったAGAの影響を受けにくい部分も含めて、全体的に髪のボリュームが減っていると感じる場合は、併発を疑うべきサインです。また、甲状腺疾患に特有の全身症状(異常な倦怠感、体重の増減、動悸など)が、AGAの典型的な薄毛と同時に現れている場合も、併発の可能性が高いと言えます。併発が疑われる場合、治療はどのように進めるべきでしょうか。この場合、最優先されるべきは「甲状腺疾患の治療」です。甲状腺ホルモンの異常は、髪だけでなく、全身の健康に深刻な影響を及ぼすため、まずは内科や内分泌内科を受診し、甲状腺の機能を正常化させることが絶対条件です。甲状腺の治療によってホルモンバランスが安定すると、びまん性の脱毛は改善に向かいます。その上で、なおM字やO字の薄毛の進行が気になる場合に、初めて「AGA治療」を検討する、という順番が基本です。AGA治療薬であるフィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルを使用する際は、必ず、甲状腺疾患の治療を受けていることを、AGAクリニックの医師に申告してください。薬の相互作用などを考慮し、安全に治療を進めるためには、両方の主治医が情報を共有していることが望ましいです。自己判断でAGA治療薬を始めるのは非常に危険です。まずは甲状腺を正常に、そして次にAGAにアプローチする。この正しい順序と、医師との連携が、複雑な併発型の薄毛を克服するための鍵となります。
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甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)と薄毛の関係
甲状腺ホルモンが不足する「機能低下症」が薄毛の原因になることは比較的よく知られていますが、実は、逆にホルモンが過剰に分泌される「甲状腺機能亢進症」も、同様に薄毛や抜け毛を引き起こすことがあります。甲状腺機能亢進症の代表的な疾患が、自己免疫の異常によって甲状腺が過剰に刺激され続ける「バセドウ病」です。甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を活発にするアクセルのような役割を担っています。機能亢進症では、このアクセルが常に全開になっているような状態になり、全身の細胞の代謝が異常に早まります。これには、髪の毛を作る毛母細胞も例外ではありません。甲状腺ホルモンが過剰になると、髪の成長サイクルである「ヘアサイクル」が、通常よりも速いスピードで回転し始めます。本来なら数年間続くはずの「成長期」が、数ヶ月程度にまで短縮されてしまうのです。髪は十分に太く長く成長する時間を与えられないまま、急いで退行期、そして休止期へと移行し、抜け落ちてしまいます。これも、機能低下症と同じく「休止期脱毛症」の一種です。その結果、頭部全体が均一に薄くなる「びまん性脱毛症」が起こります。髪質も、細く柔らかくなり、コシがなくなって、猫っ毛のようになったと感じる人もいます。甲状腺機能亢進症では、薄毛以外にも特徴的な全身症状が現れます。常に体が燃えているように暑く感じたり、異常に汗をかいたり、安静にしていても心臓がドキドキする(動悸)、体重が食べているのにどんどん減っていく、指が細かく震える、イライラしやすくなる、眼球が突出して見える、といった症状です。これらの症状は、日常生活に大きな支障をきたします。甲状腺機能亢進症による薄毛も、原因である病気そのものを治療することが、根本的な解決策となります。甲状腺ホルモンの合成を抑える薬(抗甲状腺薬)や、場合によってはアイソトープ治療、手術などによって、ホルモン値が正常化すれば、乱れていたヘアサイクルも徐々に元に戻り、髪の状態も改善していきます。薄毛と共に、これらの全身の”オーバーヒート”症状に心当たりがある場合は、速やかに専門医(内科・内分泌内科)を受診し、適切な診断と治療を受けることが何よりも重要です。